「どこかへ旅をしたい」と思う時、私はよく地図を見ます。自分がいる場所から遠い所や、行ったことのない地域など、地図を眺めているだけで旅情に駆られて、ワクワクします。御船印にも、地図をメインにデザインしている船会社があります。九州の有明海を東西の横軸に航路を持つ熊本フェリーで、熊本港と島原外港(長崎県)の間を運航しています。
同社は、「御船印めぐりプロジェクト」が始動した当初から参加しています。御船印は、海の色である水色をベースに、九州全体の地図が載り、同社の航路が赤線で示されています。土地勘のない人でも、九州のどこに航路があるのか一目で位置が分かります。通常、ほとんどの地図に航路は載っていないので、有明海を渡って熊本―島原間を一気に移動できると知っている人は多くないはず。
デザインの意図を御船印担当者に聞くと、「スタイリッシュな船体のデザインに合わせ、洋風にした」と言います。さらに、御船印を購入すると、もう一枚スペシャルカードも付いてきます。それは、同社の唯一の船である「オーシャンアロー」に関する紹介が書かれたもの。
1998年4月に就航したオーシャンアローは、〝大海原を矢のように走る〟という意味を込めて名付けられました。船体のデザインは、白を基調として、速さを表現したという青い線がシュッと矢のように描かれています。実際に、カーフェリーでありながら、21kmの航路を30分(最大時速約50km)で進む「高速カーフェリー」なのです。それまでの従来船は、2倍の1時間を要したそうです。
新造船の設計をする際、高速性と経済性を両立させるべく計画が進められました。開発は、石川播磨重工業(現ジャパンマリンユナイテッド)と東京大学船舶海洋工学科の教授が指揮を執り、日本で初めて超細長双胴船・スーパースレンダーツインヒル(SSTH)が造られました。
二つの超細い船が連結された構造で、全長72.09m、全幅は12.90m。燃費が良く、引き波を抑えるという要素も兼ね備えています。こうして、日本が独自に開発した世界最先端の高速カーフェリーが誕生したのです。
新造船「オーシャンアロー」が就航した年、有明海の短距離航路にもかかわらず速い船を走らせたことは、非常に話題となったそう。大型バスも搭載できるため、雲仙(長崎県)や阿蘇(熊本県)などの温泉を巡るツアー商品などでも利用されるようになりました。
近年は、世界文化遺産に登録された南島原市(長崎県)の原城跡と天草市(熊本県)の崎津集落をレンタカーで巡る人も多く、両県をつなぐカーフェリーは重宝されています。観光における船の需要も、高速化と共に着実に伸びていったと言えるでしょう。
私も「オーシャンアロー」に乗船しました。雄大にそびえる雲仙を背後に、有明海にきらめく水面を滑るように走り、心地良く感じました。そして、レトロとモダンが融合したカフェのような船内の売店で、御船印も購入!
高速化を目指して生まれた、技術力と夢が詰まった船に乗って、忘れられない船旅をしてみてはいかがでしょう。
旅作家/(株)Officeひるねこ代表。 2019年~日本旅客船協会の船旅アンバサダー、2022年〜島の宝観光連盟の島旅アンバサダー、本四高速のせとうちアンバサダーに就任。2014年、讃岐広島に宿ひるねこをつくる。世界60カ国、国内130島をめぐる。既刊本多数、産経新聞や日本海事新聞などで連載中