「御船印」は、日本全国の旅客船、観光船、遊覧船などの船会社で発行している船の御朱印ですが、長距離を運航するフェリーは御船印の販売が好調です。おそらく、長い乗船時間の間に乗船者が旅の記念として購入するほか、船会社のさまざまな創意工夫があるからだと思います。
先日、瀬戸内海を横断する長距離フェリーに乗船しました。往路は、名門大洋フェリーの「フェリーおおさかⅡ」で大阪南港を出発して北九州・新門司港へ向かい、復路は別府港から商船三井さんふらわあの「こばると」に乗船してふたたび大阪南港まで戻りました。
「フェリーおおさかⅡ」は大阪南港と新門司港を、「こばると」は大阪南港と別府港を運航しています。どちらも船ごとに御船印を発行しており、船内で購入できます。
名門大洋フェリーでは、乗船後すぐに案内所横の売店で御船印を購入しました。御船印のデザインにはファンネルマークが描かれています。2023年6月21日より、新たなデザインが発売され、金箔箔押しがあしらわれ、豪華さと船旅感がさらに増したように思います。
商船三井さんふらわあでは、案内所で御船印を購入するとその場でメッセージを添えてもらえます。係によってメッセージの内容は異なり、私の御船印には「また乗ってくれるのしんけん待っちょるけん」と書かれていました。ツイッターなどのSNSに、「メッセージをもらえた!」と乗船者が喜びの声を投稿しているのを目にすることもあります。
企画・マーケティンググループによれば、「乗船のたびに御船印を購入して、メッセージを楽しみにしてくださる人もいる。旅の記念にしていただきたい」と話しています。手軽に持ち帰れる御船印は、バイクのツーリングで乗船している人にも人気のよう。(販売窓口が混雑している時間等は対応できない場合がありますのでご注意ください。)
長距離フェリーは船内で御船印をもらえるだけでなく、まさに「動くホテル」とも呼ばれるように、船そのものも魅力に溢れています。部屋のタイプは多様化しており、展望浴室ではゆっくり湯に浸かって旅の疲れを癒すこともできるのです。
また、デッキからの眺めも大変よいです。大阪や別府の夜景はもちろん、ライトアップされた明石海峡大橋の下を通過するときは、夜空に煌々と光る月と本土の夜景をバックに幻想的なひとときを味わえます。仄暗い早朝、神々しい日の出が島影を照らし出す瞬間も忘れがたい思い出となりました。
名門大洋フェリーは新造船「フェリーきょうとⅡ」と「フェリーふくおかⅡ」が就航して、「withコロナ」を配慮した設計になっており、感染対策用の設備も整っています。
商船三井さんふらわあもまた、「さんふらわあ くれない」と「さんふらわあ むらさき」が就航したばかり。国内初のLNG(液化天然ガス)を燃料として運航するフェリーで、内装はクルーズ船に近しい豪華さといえます。
御船印の発行・販売における創意工夫は、各社の「おもてなししたい」という思いが原動力になっていると感じます。乗船者には、船員さんと触れ合える貴重な体験となるはずです。「御船印をもらう」ことを目的に乗船する人たちが増えていくことを期待しています。
旅作家/(株)Officeひるねこ代表。 2019年~日本旅客船協会の船旅アンバサダー、2022年〜島の宝観光連盟の島旅アンバサダー、本四高速のせとうちアンバサダーに就任。2014年、讃岐広島に宿ひるねこをつくる。世界60カ国、国内130島をめぐる。既刊本多数、産経新聞や日本海事新聞などで連載中