御船印は、神社仏閣で頒布される御朱印と船旅を掛け合わせたもの。
印のデザインは、各社が独自に表現しており、朱色と墨色を基調とした御朱印よりもカラフルで華やかな印象を持つものが多くあります。
各社が発行する印の種類に決まりはありませんが、最も多種類の印を発行しているのが東海汽船。グループ会社(伊豆諸島開発、神新汽船、小笠原海運)の印を含めると、実に80種類以上もあります(23年6月時点)。中でも、“限定印”は利用者に大変人気があります。
例えば、小笠原海運の船が点検のためドック入りした際、代替船として東海汽船の大型客船「さるびあ丸」が小笠原(東京都)まで就航しました。その日だけ、「東京~小笠原」の文字を記載した印を発行すると、朝から長蛇の列ができ、即完売したそうです。
現在、定期的に開催している東海汽船主催の御船印巡りツアーでもまた、ツアー参加者だけがもらえる限定印を出しています。
ツアーでは、東京・竹芝客船ターミナルから高速ジェット船に乗り、久里浜(神奈川県)で東京湾フェリーのカーフェリー「かなや丸」に乗り換え、金谷(千葉県)まで船旅をします。
かなや丸では操舵室を見学して(コロナ禍で見学不可の場合もある)、そこで船長からツアー限定の御船印を手渡しで頂きました。御船印は、ツアー用に作られた東海汽船と東京湾フェリーの“コラボ印”で、両社の名前と船体が書かれています。
天気が良く、潮風に当たりながら甲板にいると、東京湾を航行する幾つもの船が見えます。クルーズ船、貨物船、漁船など多様な船があり、どこから来たのかと思いをはせれば、妄想は世界の果てまで行き着きそう。改めて、海洋大国である日本のロマンは海上にあると感じました。
金谷では、地元特産の黄金アジを食べたり、町を散策したり、鋸山をロープウェイで登ったりして過ごせます(ツアーでは開催時によって内容が変わる)。そして、金谷からはバスで富津(千葉県)の造船所ISBまで移動して、東海汽船の高速ジェット船のドックを見学。基本的に造船所の見学が難しいとされる中、こうした機会は非常にまれです。機関士の案内に、参加している子供たちの目がキラキラと輝いていたのが印象的でした。
旅の最後は、横浜からさるびあ丸に乗って竹芝まで戻りました。海上からきらびやかな夜景を陶然と鑑賞し、日帰りの船旅ツアーとは思えない充足感に満たされました。
旅作家/(株)Officeひるねこ代表。 2019年~日本旅客船協会の船旅アンバサダー、2022年〜島の宝観光連盟の島旅アンバサダー、本四高速のせとうちアンバサダーに就任。2014年、讃岐広島に宿ひるねこをつくる。世界60カ国、国内130島をめぐる。既刊本多数、産経新聞や日本海事新聞などで連載中